エネルギー・環境

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2014/03/23

【サントリー天然水の森シリーズ】第1章 水源地域の未来が都市の運命を決める

「天然水の森」活動は社会貢献ではなく事業継続確保のため

サントリーホールディングス株式会社
エコ戦略部 チーフスペシャリスト
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
水科学研究所 主席研究員
九州大学 循環型社会システム工学研究センター 客員教授
日本ペンクラブ会員
山田 健 氏
1978年東京大学文学部卒業。コピーライターとしてサントリーへ入社。ウイスキーやワイン、音楽などの広告制作を手がける。1986年より「サントリー世界のワインカタログ」の編集長を兼任。環境広告「水と生きる」のクリエイティブディレクターを経て、現在は「天然水の森」「水科学研究所」「ビール美味文化創造プロジェクト」などに携わる。『今日からちょっとワイン通』『ゴチソウ山』『水を守りに、森へ』など著書多数。日本ペンクラブ会員。

コピーライターが地下水を知った瞬間

 2013年の年の瀬、熊本県阿蘇の外輪山に広がる広大な森林の林道を進みながら、木々の管理状態や、鳥や動物の痕跡を示して、森林保全の地道な活動を説明するのは、この森林整備プロジェクトの発案者であるサントリーホールディングス株式会社 エコ戦略部 チーフスペシャリストの山田 健氏だ。
 ここ「天然水の森 阿蘇」は、熊本県上益城郡嘉島町の「サントリー九州熊本工場」の上流に位置し、同工場が利用する地下水を生み出す水源涵養エリアである。サントリーが10年以上にわたって推進している「天然水の森」プロジェクトは、山田氏が2001年に企画立案し、2003年7月より始まった。
 山田氏は、東京大学文学部からコピーライターとしてサントリーに入社した。有名なキャッチコピーを数多く生み出した宣伝のプロが、何故水や森に関わるようになったのか。その経緯について山田氏は当時を振り返る。
 「長い間、ワインやウイスキーの広告を手掛けていたが、前世紀末あたりから事業の重心が清涼飲料水やミネラルウォーターに移りつつあった。それらの広告を企画するにあたり、その主原料である水に関心を持った。調べてみると、当社の商品のほぼすべてが地下水に頼っていることを知って驚いた。もしも地下水が枯渇したら事業が継続できなくなる。地下水は事業の生命線だと実感した」(山田氏)

本業に近いところの取組は自然な物語

 清涼飲料水の工場は、一般的に港や高速道路の近くなどの物流に有利な場所にある。そして、工業用水や水道、川の水を仕入れて浄化して商品を製造する。しかしサントリーは、創業当時から水質にこだわっており、おいしい水、製品に合った水が得られる立地に工場を作ってきた経緯がある。その水は、ほぼすべてが地下水である。
 山田氏は、「法律的な観点からいえば、土地を持っていればその下にある地下水をくみ上げられる。しかし、地下水に依存している企業としての責任がある。くみ上げている以上の地下水量を森で育むことで、事業継続が確保できる」と説明する。
 「本業に近いところの取組は自然な物語」だという山田氏は、NPO森は海の恋人の畠山重篤理事長の取組を例に挙げる。畠山氏(水産養殖場代表取締役、京都大学フィールド科学教育研究センター社会連携教授)は、宮城県気仙沼湾で漁師として牡蠣の養殖を営みながら、「森は海の恋人」をキャッチフレーズに植林活動を続けてきた。
 海の漁師が森の整備に関わると聞くと、唐突な印象を受ける。しかし「牡蠣を豊かに育ててくれるのは海、その海を育ててくれるのは海に流れ込む川の栄養素、その栄養素は森から川に流れ込む。すなわち、森が牡蠣をそだてる、森は海の恋人」と聞けば納得できるだろう。つまり、牡蠣養殖事業を持続するには、森の豊かな養分が川に流れ込み、海に届けられることが条件となり、森林整備が不可欠ということだ。

森林整備は社会貢献ではない

 サントリーが森林整備に取り組む意義について山田氏は、「森に雨が降って地下水になって工場に届くまで20年くらいかかり、森林の整備にも長い時間がかかる。森林を永続的に整備するには、事業の一環として取り組める企業の役割。特に当社は地下水に事業を依存しており、その必要性と責任がある」と話す。
 また、「事業の一環として資金を投じて取り組むため、事業に必要な地下水量の確保や、事業に必要な安全でおいしい水質を維持するといった、数値目標や品質目標、時間的な計画を設定し、目標を達成するまでやめるわけにはいかない。決して社会貢献で取り組んでいるわけではない」と強調する。
 「天然水の森」は林野庁の「法人の森林制度」を利用して、熊本県阿蘇外輪山の100ヘクタールから始まった。当時、宣伝部に籍を置く山田氏と、環境部(現エコ戦略部)の課長の2名だけでのスタートだった。

 そして10年以上を経た現在、「天然水の森」による森林の整備面積は全国で7600ヘクタールへと広がり、同社が国内で利用する地下水量を十分に確保できている。
 山田氏は、「初めての取り組みなので、当初は知見も人脈もなく、やみくもにやっても成功しないと考えた。知見や人脈の広がりに応じて規模を徐々に広げていくことで、全国の工場の水源涵養エリアに活動を広げることができた」と振り返る。

知見と人脈の広がりとともに面積を拡大

 地下水にとって土壌や下生えが大切というのは、当初は仮説にすぎなかったという。その仮説に基づいて、研究者たちとの共同研究やスーパーコンピューターによるシミュレーションを実施し、地下水涵養の仕組みや影響などを証明してきたのだ。
 山田氏は、「地下水にとって土壌が大切、土壌を守るためには下生えが大切。斜面を守るためにはいろいろな木や草が生えていることが大切ということがわかった。水というキーワードから入ったら、保全する対象が土壌、木、下生え、斜面、多様な生態系へと広がっていった」と知見の広がりについて説明する。
 同時に人脈も広がった。通常は交流のないさまざまな分野の専門家が、「天然水の森」に参加することで互いに交流するようになり、広範囲で効果的な研究ができるようになったのだ。
 同社は2011年より毎年、「天然水の森」における研究結果を発表する「水科学フォーラム」(主催:サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 水科学研究所)を開催している。通常の学会ではその分野の専門家だけが集まるが、水科学フォーラムには水文学、土壌学、生態系、林学などの専門家や、林道づくりの指導者など現場のプロや人材を育成する人まで、いろいろな分野の人が集まり、知見が広がり続けている。
 山田氏は、「この取組を総合科学へと発展させていく。ただし、森をよくしていく、環境をよくしていく、生態系をよくしていくといった実益を生み出せる、実学でなければ意味がない」と意欲を語る。

(談:山田 健氏/まとめ:レビューマガジン社・下地孝雄)
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