エネルギー・環境

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2014/12/10

【サントリー天然水の森シリーズ】第3章 生態系と水循環は土壌で成り立っている 過疎化が進み浸食や土壌崩壊の危険が増す日本の森林

過疎化が進み浸食や土壌崩壊の危険が増す日本の森林

東京農工大学大学院教授
農学博士
石川 芳治 氏
1952年静岡県生まれ。
京都大学農学部林学科卒業。農学博士。
1975年建設省に入省し、京都府立大学農学部助教授、東京農工大学農学部助教授を経て、2005年東京農工大学農学部教授に就任。
2010年4月より現職。主に土砂災害防止、流域保全、鹿による林床植生衰退地における土壌浸食などの研究を行っている。

水資源の循環には森林と土壌が大切

 土砂災害防止、流域保全、鹿による林床植生衰退地における土壌浸食などの研究を行っている東京農工大学大学院教授の石川氏は、森林と水循環の大切さについて次のように訴える。
 「日本のおよそ67%が森林です。水の供給には、この森林が一番重要です。森林に降った雨は、葉で少しは蒸発しますが、約8割は地表面に到達します。そこで、すぐに水が地表を流れて川に入るものと、地中に入っていく水に分かれます」
 石川氏は森林と水の関係について説明し、さらに続ける。「普通の森林だと、水は地表面を流れないので、降った雨はほとんどが地中に入ります。そして、地中に入った水が徐々に出てきて川に入るのです。このときに、土壌の表面の部分に、たくさんの隙間があると、より多くの水を含むことができます。つまり、スポンジのように水を貯めることができる土壌か否かが、森林の水循環にとっては重要なのです」
 一般的に「土」と呼ばれている土壌は、地面に堆積した枯れ葉などが腐敗した有機物が中心で、それを昆虫などの生物が食べている。枯れ葉が多くたまると、それだけ水を吸収する力が強くなり、土壌の浸食を防ぐ一助にもなる。
 「土壌に有機物がないと、ふかふかの土ができないのです。私は土壌浸食の関係や、流出の関係を調べていますが、新しく落ちた葉も、1年も経つとぼろぼろになって腐葉土になります。そして、1年で半分くらいに、2年でほぼ9割は分解されてなくなります。そのうちの1割が残り、それが毎年少しずつ溜まっていくのです。そうして、5〜6センチとか10センチとかになった頃は、浸食も受けにくくなります。また、水や土中生物も数多くいるので、土壌の活性化にも役立っています。さらに、小生物がいることで虫も発生して、さらに鳥がやってきて、生態系が成り立っていきます。その生態系から、木も栄養を摂って大きくなるのです」と石川氏は水と生物の循環について触れる。
 土壌を守るということは、まず表面土壌が健康でなければいけないと石川氏は指摘する。そして、表面土壌は鉱物ではなくて植物であり、有機物があってはじめて生命が育まれ、水源の保全や循環にとっても理想的な環境が整うのだ。

鹿の食害よりも深刻な森林の浸食が進んでいる

 水の循環にとって重要な森林の働きを脅かす存在として、鹿の食害が指摘されている。石川氏は「鹿の食害による林床植生衰退地における土壌浸食機構の解明と対策手法の開発」というテーマで研究を続けてきた。
 石川氏は「土壌を脅かす理由として、鹿の問題もあるのですが、そもそも鹿が土壌を荒らすというのは、翻ると人間の作用によって餌がなくなったことが大きな原因です。また、鹿以外にも土壌を浸食している原因として、杉やヒノキに代表される針葉樹林の植え過ぎがあります。針葉樹林を放置してしまうと、森の中に太陽光が届かなくなり、下草が生えなくなってしまって水が入りにくくなります。つまり、土壌の表面に草がないので表面を水が流れやすくなってしまうのです。その結果、鹿が草を食べたときと同じような状況になり、浸食が起きやすくなって水の循環もしにくくなります。また、針葉樹林は間伐を行わないと生長するにつれて過密になり、太陽光が不足して1本1本の木の生長が悪くなり“もやし”のような状態になります」と針葉樹林の問題を指摘する。
 この問題を解決するためには、広葉樹の存在が不可欠だという。
 「広葉樹は、葉っぱも大きくてふかふかしているので、流されにくいのです。また、密集して生えないので、地面にまで太陽光が届きます。森の中での共生が保たれるのです。それに対して針葉樹林では、5年に一度は間伐を行わなければ光が入らなくなってしまいます。しかし、山奥の針葉樹林の間伐にはコストがかかり、放置されている例が多く見られます。そういったところを放置したままにしておくと、地下水が減っていくのです。そして、土壌浸食が起こり、木そのものも弱くなってしまうのです」と石川氏は説明する。

過疎化が進む水資源の危機と再生への取り組み

 「今、水源地域の過疎化が進んでいます。住んでいる人が少ないので、鹿に人間が対抗できないだけではなく、ビジネスにならない人工林が放置されて、間伐が行われないのです。過去に、丹沢で調査した林床合計被覆率と土壌浸食量の関係では、林床の被覆率が減少すると土壌浸食が増えるという結果が出ました。森林の下草が失われ、堆積するリター(落葉落枝)が減少すると、土壌に浸みこむ雨の量が減ります。浸透率が下がれば、その分、地面を流れる水が増えて、どんどん土が削られて流されてしまうのです。土壌の浸食は洪水にも大きく影響しますし、水源涵養の面から見てもよくありません」と石川氏は水資源の過疎化とその危険性について話す。
石川氏の実験から、「水」と「土」の間には、かなりの相互関係があることがわかり、水を守るための土への取り組みも推進されている。
 石川氏は、「鹿によって浸食されてしまった森林は、柵を作って表面に藁を敷いて、植物の種を撒いて生やす取り組みを行っています。柵を作るのは、抜本的な解決にはなっていませんが、浸食を防ぎながら植生を回復できます。鹿は、理想的には1平方キロメートルに3頭くらいがいいのですが、鹿の保護区は山の中にあり、そこに追い込まれてしまったので数が増えているのです」と話す。
 「林業自体が衰退して、山に関心がなくなり、山に行く人も減ったので、再生には欠かせない間伐などの対策も進んでいません。森林の大きな役割は、緑のダムとしての機能です。地下水として自然に水を貯留して、使いたい水を安定的に供給してくれます。また、災害の予防にもつながります。そう考えると、土壌をきちっと守って正常にして、緑のダムとして地下水を守るための取り組みは、コンクリート製のダムを造るよりも安くて効果的な場合が多いのです」と石川氏は森林保護の大切さを訴える。

(取材:レビューマガジン社・下地孝雄/まとめ:田中 亘)
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