文 教

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2014/10/14

教育現場で進む電子ペーパーの活用

(左)
ソニービジネスソリューション株式会社
営業・マーケティング部門
デジタルペーパー事業推進室
セールスマネージャー
松永健治 氏

(右)
ソニービジネスソリューション株式会社
営業・マーケティング部門
文教ソリューション営業部
統括部長
山形裕之 氏

タブレットを中心とした教育現場のICT化が進んでいる。タブレットは生徒の回答の共有などに効果的だが、手書きという観点に着目した場合、タブレットの液晶はガラスでできているので、ペンが滑ったり、ガラスの厚みの分屈折率が気になったりするなど、どうしても紙の書き心地とは異なってしまう。そこで注目が集まっているのが電子ペーパーだ。

大学で普及が進む電子ペーパー

 大学などの教育現場でデジタルペーパーの導入例が増えてきている。デジタルペーパーは、専用のペンで手書きした内容をデジタルデータとして保存したり、書類データなどを保存して持ち運んだりして使う。中でも、早稲田大学や法政大学など導入校が増えてきているのが、ソニーのデジタルペーパー「DPT-S1」だ。
 まず、DPT-S1の特長などを紹介していこう。DPT-S1の使い方は、画面にPDFファイルを表示して手書きするのが基本となる。画面サイズは、A4用紙がほぼ同サイズで読める13.3インチ。表示部分の素材はプラスチック、筺体はマグネシウム合金を採用している。頑丈でありながら、重量が約358gと非常に軽い点もポイントだ。500mlのペットボトルより軽いので、持ち運びが負担にならない。実際に手にとってみると、あたかもバインダーを持っているような感覚があった。バッテリーも長時間稼働し、最長で3週間使い続けられる。
 教育現場へDPT-S1の導入を推進するソニービジネスソリューションの松永健治氏は、「電子書籍リーダーは本の置き換えとして提供されていますが、DPT-S1は紙やノートの置き換えを想定して開発しました。教育分野でタブレットやPCが広がってきていますが、デジタルペーパーはあくまでもペーパーレスの実現に貢献するものであり、タブレットやPCと共存できます」と説明する。

紙のようにすらすら書ける

 タブレットは、LEDバックライトなどの内部機構が発光して情報を表示するが、DPT-S1などの電子ペーパーは蛍光灯などの光を利用する反射型のディスプレイなので、紙を見ている感覚と非常に近い。
 実際の紙のようにすらすら書けるのも特色だ。同社の山形裕之氏は、「教育現場でタブレットを紙のノートのように使用するケースがありますが、タブレットの液晶はガラスであり、ある程度の厚みがあります。そのため、デジタルペンで手書きした場所と実際に表示される場所にズレが生じることがあり、違和感を覚えるユーザーもいます。一方、DPT-S1は画面がプラスチックでできており、厚みがほとんどないため、紙と同じ感覚で書けます」と話す。
 また、DPT-S1は文書ファイルを検索する機能を備えており、目的のファイルを迅速に探し出せる。マーカーや付箋、注釈などを付ける機能も搭載し、紙のノートのように重要な部分を強調することもできる。

学習の意欲が向上

 昨年の10月から今年の3月まで、法政大学、早稲田大学、立命館大学でDPT-S1を授業で活用する実証実験が行われた。レポート提出などに活用し、大きな効果が得られたという。
 法政大学は、同校の授業支援システム「Sakai」とDPT-S1を接続し、資料の配布や答案の回収、採点後の返却などをDPT-S1で完結できるようにした。ペーパーレスの実現に寄与し、用紙代の削減に成功したのだ。
 早稲田大学はノートの代替品としてDPT-S1を使い、論文添削やアイデアスケッチ、原稿の校正などをDPT-S1で実施したという。例えば、卒業論文を添削する際は、教員が大量の紙を自宅などに持ち運ぶ必要があったが、DPT-S1に置き換えたことで持ち運びの負担が大幅に軽減されたのだ。
 立命館大学では、35名を対象に実施した講義の中でDPT-S1を利用し、提出物などをDPT-S1上で作成して提出できるようにした。手書きによる理解度の向上や、記憶の定着率の向上が実現したほか、PDFの資料に直接記述できる点が学生に好評であったという。
 実証実験では、ペーパーレスや業務負担の軽減に加え、学生の学習に対する意欲の向上も効果も見られた。学生が、デジタルペーパー内の過去の履歴から自分の学びを振り返り、自分の成長を確認することで学習に対するモチベーションが向上したのだ。また、教員とのやり取りがデジタルによって円滑に行えるようになり、コミュニケーションが密になったという。
 また、北海道大学は、用紙代の削減や印刷業務の効率化などを目的として、今年の3月にDPT-S1を導入した。デジタルペーパーを選定する上ではタブレットも検討されたが、紙と比べても違和感がないことがデジタルペーパーを選定した一因であった。

アイデアを逃さない

 電子ペーパーを教育現場で利用することで、学生の状態の把握が迅速化する。具体的には、手書きしたデータを回収することで、授業への理解度を確認できるようになる。さらに、資料の配布や答案の回収の速度が紙を使うよりも速くなるため、空いた時間を生徒と向きあう時間などに割り当てることができるのだ。
 また、紙のノートは月日が経つのに伴って冊数が増えていく。そのため、論文などの作成時に過去のノートを参考にしたい場合、どの部分を参考にするかを探す作業に手間がかかってしまう。場合によってノートをなくしてしまったり、破棄してしまったりすることもあるだろう。一方、電子ペーパーは端末内に大量の手書きデータを保存できるほか、インデックスなどを検索できるため、目的のデータを素早く探し出せる。
 また、ディスカッション中に思いついたアイデアを素早く記述し、後から参考にすることも容易であるため、「アイデアを逃さない」(松永氏)
 紙を使った教育では、講義の内容を学生が理解しているかを確認するにはテストくらいしか方法がなかった。山形氏は、「授業のたびに、紙を使った小テストを実施するとなると、印刷や回収に手間がかかるだけでなく、紙は学生に返してしまうのも課題となります。例えば、毎回同じような添削を受けている生徒がいる場合も、紙だとそのことに気が付かないことがあるのですが、DPT-S1ではデータが残っているため、過去の添削のデータを参照にしながら適切な指導が行えるようになります。印刷も不要で、回収も手間がかかりません」と説明する。

技術の進展が市場の拡大の鍵

 DPT-S1は、“ネットワークにつながっている紙”として、資料の配布・回収の迅速化、共有などが実現する。紙の置き換えだけでなく、データの共有など紙では実現できないことも可能にする。DPT-S1を導入している早稲田大学の教員は、「もう紙には戻れない」と漏らしている。
 ソニービジネスソリューションは、デジタルペーパーや学習アプリを含めた学習支援ソリューションを今秋頃に発売を開始する予定で、大学などに提案していくという。松永氏は、「紙の電子化は、これまでに多くのメーカーが挑戦しましたが、どのように採用を促し、どのように技術を進化させていくかが課題だと捉えています。ペーパーレスによるコストメリットや環境配慮、高い学習効果などを訴求し、デジタルペーパーの市場を広げていきたいと考えています」と説明する。
 山形氏は、「以前は、教員が黒板に板書した内容を生徒がノートに書くのが一般的でしたが、今は多くの大学で、板書をスマートフォンで撮影して済ませてしまうことがあります。手書きは、理解度や記憶への定着率などを向上できるため、DPT-S1を授業で活用することは効果的です」と話す。
 筆者が学生の頃は、山形氏が話したように、黒板に書かれた内容をノートに書き写すのが当たり前であったが、今はスマートフォンで撮影して終わりという学生がいるのだから驚きだ。ジェネレーションギャップというか、教員に失礼だとは考えないのであろうか。カメラで撮影するよりも手書きした方が内容が頭に入りやすいと思うので、デジタルペーパーの活用を推奨したい。
関連サイト:ソニー製品情報 デジタルペーパーサイト

(リポート:レビューマガジン社・笠間洋介)
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