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2014/06/27

マンション内電力融通システム「T−グリッドシステム」採用のスマートタウン計画

静岡ガスは、東レ建設と協力して、家庭用燃料電池エネファームによるマンション内電力融通システム「T−グリッドシステム」を開発・構築した。
同システムは、電力の一括受電とエネファームを組合せて、マンション内で電力の融通を行う技術。

家庭用燃料電池エネファームの性能限界を補うT−グリッドシステム

 T−グリッドシステムは、家庭用燃料電池エネファームの最大発電出力となる750Wという電気の使用量を超えたときに、不足する電力を他のエネファームから融通するシステム。その導入効果は、一般的なマンションの電力設備と比較したときに、以下のように試算されている。
・ 一次エネルギー削減率:約25%(建築物におけるエネルギー消費量ベース)
・ CO2削減率:約30%(建築物におけるエネルギー消費量ベース)
・ 外部からの電力購入量(系統依存度)の低減率:約60%
・ エネルギーコスト削減率約30%(電力融通の売買取引によるコスト削減効果は除く)

 また東レ建設では、2017年度の完成を目標として、日本発となる分譲マンションと一戸建を複合したスマートタウンを静岡県東部に建設する計画。同社によるスマートタウン計画では、T−グリッドシステムの開発協力および導入を推進するとともに、太陽光発電と蓄電池による通常時の省エネルギーと災害時(停電時)の電力供給というエネルギーセキュリティの構築にも取り組む。
 そして、HEMS(Home Energy Management System)、MEMS(Mansion Energy Management System)を導入し、各住戸や共用部のエネルギー(電力、ガス、融通電力量など)を見える化し、機器の遠隔発停や最適な制御と地域情報・生活支援情報などサービスも提供していく計画だ。
 一方の静岡ガスは、マンション各住戸へにエネファームを導入し、マンションへの一括受電サービス事業による電力の供給を行う。加えて、電力、ガスなどの料金一括請求システムとHEMSを活用した各住戸へのエコレポートによるトータルエネルギーサービスを提供する予定。

家庭用燃料電池エネファームの課題を解決する経済効果が成功の鍵となる

 家庭用燃料電池エネファームは、都市ガス・LPガスから取り出した水素と、空気中の酸素を化学反応させて電気と熱を発生させるコージェネレーションシステム。利用段階では、反応物として水しか排出しないのでクリーン。また、化学反応から電気エネルギーを直接取り出すためエネルギーロスが少ない。電気と熱の両方を有効利用できるので、家庭でのエネルギー効率を高める。
 このようにメリットの多いエネファームだが、現状では課題もある。その代表的なものが、経済性の向上と、対象ユーザーの拡大、そして海外展開となっている。これらの課題の中でも、経済性の向上は同ユニットそのものの普及に関わる大きなテーマ。資源エネルギー庁の燃料電池推進室の資料では、2015年に70〜80万円まで価格を下げられれば、国内での普及が加速すると予測しているが、現状では本体の希望小売価格は190万円(税抜き)となっている。
 そこで注目されている経済性の効果が、ランニングメリットの向上になる。特に、電力や熱をエネファーム同士で融通させることができれば、稼働率が向上して消費者の光熱費削減メリットが高まると期待されている。
 そのためには、「省エネ性」と「経済性」の観点から、熱・電気の需要規模に応じた適切なエネファームの台数規模、熱損失を踏まえた適切な熱融通のあり方、住棟全体のエネルギーの需要と供給のバランスを見て、定格運転しているエネファームを「いつ、どれだけ」運転させるか、という制御方法などの検証が必要になる。
 T−グリッドシステムは、そうしたエネファームのランニングメリットの向上に寄与するシステムとして期待されている。

(リポート:ユント・田中 亘)
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