生活・医療・福祉

最新の情報通信技術(ICT)をはじめとした革新的なテクノロジーを駆使して実現される快適で便利な持続可能な社会、スマートシティ、スマートコミュニティの実現に向けて、関連する分野においてそれぞれ進められている研究・開発、実証実験など、実用化に向けたさまざまな取り組みを総合的に発信していきます。
2014/02/22

ICTを活用した新たな街づくりの実現に向けて

総務省 情報通信国際戦略局
情報通信政策課 課長補佐
白壁角崇氏

スマートシティの実現に向けて、全国規模で実証実験が行われている。本講演では、スマートシティを普及させていくにあたっての課題や、総務省が主導する実証実験の内容などが示された。

ICTの利活用で出遅れている日本

 総務省の白壁角崇氏は講演冒頭で、「日本はICT環境のインフラ整備は進んでいるが、利活用については遅れている」と指摘した。総務省の調べによると、2012年3月末時点で日本の97%の世帯が、ブロードバンドの環境が整備されていたという。経済協力開発機構(OECD)の調べでは、2012年6月時点における光ファイバーの契約率は、OECD加盟国の中で日本が1位であった。
 日本はインターネットの接続環境の整備は進んでいるが、ICTツールの利活用については遅れが目立つ。例えば、日本は診療所での電子カルテの導入率が低い。各国の電子政府の発展レベルを国連が評価する電子政府発表指数でも、日本は2008年では11位であったが、2012年には18位まで後退した。ICTの環境を整備するだけでなく、実際に利活用できなければ効果は得られない。

 白壁氏は、「ICTを利活用する上で、注目が集まっているのがビッグデータ、クラウド、センサー、スマートフォン」と話す。ビッグデータについては、全世界のデジタルデータの総量は2005年から2020年までの15年間で約300倍になるとされており、そのデータを収集、分析することで、多様なサービスが生み出される可能性がある。
 クラウドは、データを収集、分析するための基盤として利用できる。また、世界中のセンサーの小型化、低消費電力化、低価格化が進んでおり、普及を後押ししている。スマートフォンには最新のICT技術が詰め込まれているが、スマートフォンの契約数も増加する見込みであるという。

カード1枚を携帯するだけで適切な医療が受けられる

 総務省は、ビッグデータ、クラウド、センサーネットワークなどの最先端のICTを、行政や農林水産、エネルギー、医療、交通などの複数の分野で利活用するための新たな街づくりに取り組んでいる。
 総務省が描く“ICTスマートタウン”は、センサーデータや行政が保有するデータで構成されるビッグデータの利活用、誰でもICTを利活用できるインターフェースの実現、平時だけでなく災害時にも利活用できるICT環境の整備などを目指している。

 総務省は、ICTスマートタウンを実現するための実証実験を行っている。例えば、愛知県豊田市の足助地区において、高齢者に「あすけあいカード」とよばれるICカードを配布し、地域医療に役立てている。
 カードには氏名、持病、服用している薬、投薬歴などの情報が記録されているほか、バスの乗車券や病院の診察券の機能も備わっている。救急搬送時にはカードを読み取り、氏名や投薬歴などが判明する。
 また、病気の発作などによって話しづらいときも、医者はICカードから正しい情報を取得できる。高齢者は、カード1枚を携行しているだけで、より正確な情報に基づいた医療を受けられるようになる。

 静岡県袋井市では、メロンなどの特産品にID情報を記録したタグを貼り付けて、流通経路を追跡するトレーサビリティの実証実験に取り組んでいる。袋井市のトレーサビリティシステムは、災害時には救援物資の配送や管理にも応用できる。その特性について白壁氏は、「災害時の物資輸送の管理に使用する際も、使うツールは従来のシステムと同じであるため、緊急時であっても特別な訓練をせずに利用できる」と説明する。

 総務省は、ICTスマートタウンを2018年に実現させる計画だ。そのためにICTの利活用に関する実証実験を全国で進めているが、ICTスマートタウンの実現の可否は、実証実験からいかに、成功事例を生み出せるかにかかっている。成功事例から、ICTスマートタウンの共通プラットフォームを作り上げる目的があるからだ。
 実証実験を成功させるためには地域住民や地元企業の積極的な協力、参加が不可欠である。そのため、電気代の削減など住民や企業側のメリットを明確化することが求められるだろう。

(リポート:レビューマガジン社・笠間洋介)
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