ICT(情報技術)

最新の情報通信技術(ICT)をはじめとした革新的なテクノロジーを駆使して実現される快適で便利な持続可能な社会、スマートシティ、スマートコミュニティの実現に向けて、関連する分野においてそれぞれ進められている研究・開発、実証実験など、実用化に向けたさまざまな取り組みを総合的に発信していきます。
2014/09/21

未来を変えるトリリオンセンサーの衝撃

SPPテクノロジーズ株式会社
エグゼキュティブシニアアドバイザー
神永 晉 氏

毎年1兆個のセンサーを活用する社会であるTrillion Sensors Universeの実現に向けて、米国では産学官連携の「TSensors Summit」を開催している。そのサミットに日本から参加し、Japan’s Movement Towards a Trillion Sensorsと題する講演を行ったのが、SPPテクノロジーズ株式会社 エグゼキュティブシニアアドバイザーの神永 晉氏。神永氏は、世界を代表するMEMS(微小電気機械システム)の第一人者。そのMEMSを通して知り合ったかつての盟友たちが、Trillion Sensors Universeの実現に取り組んでいることから、神永氏も日本におけるセンサー社会の実現に向けた活動を推進している。

Trillion Sensors Universeの意味するもの

 Trillion Sensors Universeとは、70億人が毎年150個のセンサーを使うことになる1兆個のセンサーによって、地球規模の課題を解決するために、新たな産業やサービスが生まれ、雇用も創出するというもの。Trillion Sensorsを意味するTSensorsを冠した「TSensors Summit」は、新しいセンサーの開発について討議する会議で、10年後の2023年の実現を目指してロードマップの作成作業を進めている。
 その発起人は、つい最近までFairchild Semiconductorセンサー・ソリューション部門副社長であったJanusz Bryzek氏。全世界で使用されるセンサーは、10年後には100倍になると予測されている。そして、Bryzek氏がTSensorsの必要性を訴えている背景には、「Abundance(日本語訳:楽観主義者の未来予測)」という書籍の影響がある。この書籍は、Peter Diamandis氏とSteven Kotler氏の共著。
 その内容は、これからの世界が想像する以上に豊かな社会に向って加速していると予測するもの。世界の食糧不足、未整備の医療体制、水不足、エネルギーの枯渇などの問題は、20年以内に解決されると書かれている。Abundanceとは文字通り、物が豊富にある状態を意味する。同書によれば、20年後には物資の供給が需要を上回り、その満たされた状況をAbundanceと呼んでいる。
 Bryzek氏は「TSensors Summit」の基調講演で、バイオ技術、医療、ナノ技術、ネットワークとセンサー、デジタル製造(3Dプリント)、コンピューター、人工知能、ロボットなど、指数関数的に進化するテクノロジーによって、Abundanceを実現するセンサーの開発を加速することができる、と指摘している。中でも、ネットワークとセンサーの分野においては、スマート・システムによりセンサー需要を押し上げると予測する。
 スマート・システムとは、モバイル、ウェアラブル、デジタル・ヘルス、モノのインターネット、コンテキスト・コンピューティング、CeNSE、そして5-in-5。モバイルやウェアラブルにデジタル・ヘルスは、すでに実際の製品を手にすることもできるが、コンテキスト・コンピューティングは、人とコンピュータが協働する情報空間の実現を目指すもの。また、CeNSE(Central Nervous System of the Earth)は、HPが提唱する情報エコシステム。そして、5-in-5はIBMが5年以内に世界を変えると予測する5つの技術。
 Bryzek氏は、これらの技術的な進化の可能性をもとに、1兆個のセンサーの使用は可能と試算して「TSensors Summit」で広範囲な課題を議論している。

日本から参加したMEMSのパイオニアとBryzek氏との交流

 2013年の10月23日から米国のスタンフォード大学で開催された第一回の「TSensors Summit」には、日本からもSPPテクノロジーズ株式会社 エグゼキュティブシニアアドバイザーの神永 晉氏が参加した。神永氏は、MEMSのパイオニアの一人と呼ばれる技術者であり経営者。MEMSによって開発が実現したセンサーの代表は、スマートフォンなどに搭載される小型マイクロホンをはじめとして、インクジェットプリンターのヘッド、圧力センサー、加速度センサー、ジャイロスコープなどがある。MEMSに必要な立体的な微細加工を可能にしたことで、さまざまなセンサーデバイスの開発が可能になった。近年では、ナノ・マイクロメートルの物質を操作・捕獲・分析するツールとしても活躍している。
 神永氏は、そのMEMSの第一人者であり世界的にも著名なエンジニア。その関係で長年MEMSに関わってきたBryzek氏とも共通点があった。
 「TSensors Summitは、今年の2月に日本でも開催されました。また、9月にはドイツのミュンヘンで、11月には米国、さらに12月には東京で開催を予定しています。昨年の第一回TSensors Summitでは、参加者がアイデアを持ち寄って、約300の用途が提示されました。それを分類し、ワーキンググループによって、13のChapterに整理しました。この中で、Chapter 7bに私が提案した橋梁などの老朽化モニタリングが採用されました」と神永氏は振り返る。
 Trillion Sensors Universeが目指している1兆個のセンサーがある社会は、IoTにおいても重要な意味をもち、その影響する範囲は、以下のように捉えられている。

Smart Cities
Smart Environment
Smart Water
Smart materials
Energy and smart metering
Security,public safety and emergencies
Retail
Logistics and transportation
Industrial controls
Smart agriculture
Smart animal farming
Domotic and home/buildings automation
eHealth and life science
IT and networks
Industrial

 「1兆個のセンサーの実現は、新たな雇用の創出にもつながる、とBryzek氏が基調講演で述べています。例えば、個人が150個ものセンサーを使うようになれば、そこから得られるデータの解析やスマート・システムの開発、サービスの提供などで、多くの産業が興ると予測されています。関連産業も含めると、さらに広がるでしょう」と神永氏は指摘する。
 スマートシティの実現にとって、都市や街の安全を継続的に監視するセンサーの果たす役割は大きい。すでに、日本でも様々なセンサーや監視モニターなどが活用されているが、Trillion Sensors Universeでは、その想像を超える規模で社会や都市を革新しようという取り組み。インタビューした神永氏は、日本を代表するMEMSの第一人者だが、第一回のTSensors Summit から現在に至るまで、日本からの参加者や協力者の少ないことを危惧していた。本来であれば、国家レベルで取り組むべき壮大なプロジェクトだけに、日本がこの分野で遅れをとることを心配しているのだ。

(リポート:ユント・田中 亘)
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