エネルギー・環境

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2014/11/28

オール愛媛”で農業のICT化を促進

株式会社ハレックス
代表取締役社長
越智 正昭 氏

みかんの産地として有名な愛媛県では、気象データを活用した農業のICT実証実験が地場の篤農家とICT企業によって進められている。テレビや新聞で報じられる一般の天気予報とは異なり、天気予報のような県別、市別の情報ではなく、1キロメートル四方の単位でピンポイントに気象を予測することで、気象による収穫減少などのリスク回避を目指している。取り組みを主導する事業体「坂の上のクラウドコンソーシアム」のハレックス 代表取締役社長 越智正昭氏にその狙いを取材した。

農家が求めるものは圃場の気象情報

 農業は、気象によって作柄や収量が大きく異なる。そのため、気象情報を把握して適切な対策をとり、収穫量の減少などのリスクを回避する必要がある。
 これまで農家は、地域をひとまとめにしたテレビや新聞の天気予報を日々の農作業や営農計画の判断に使うことを強いられてきた。
 しかし、テレビや新聞の天気予報では、営農に求められる圃場単位の細かな気象情報を確認することは難しい。篤農家は、県域など広範囲を対象とした気象情報ではなく、圃場に密着した気象情報を求めていたのだ。

“頭上の天気予報”を農家に提供

 愛媛県は、ICTを活用して産業としての農業再生に取り組んでいる先進的な地域だ。地場農家とICT企業、ハレックスが構成する共同事業体「坂の上のクラウドコンソーシアム」の主導で、篤農家が求める圃場の気象情報を活用した農業ICTの実証実験が、農林水産省の事業採択を受けて2014年から展開されている。
 その中核は、ハレックスが運用する気象予測情報サービス「HalexDream」だ。本サービスは、気象庁が配信する気象ビッグデータを駆使して、国内を1キロメートルの詳細さで、まさに“頭上の天気予報”を高精度に予測する。今回の実証実験では、ハレックスの気象予測情報を農業用気象システムに取り入れたのだ。
 ハレックスの越智氏によると、実証実験を通じて、高温・低温の予知をアラートとして篤農家に提供し、露地栽培での障害や収穫減少リスクの回避、生産コスト削減などを目指すという。あわせて、農業従事者がスマートフォンなどで使える安価な営農支援アプリの作成も目指しているようだ。地場ICT企業が開発する営農支援アプリによって、圃場ごとにピンポイントの気象予測を確認できるため、営農者が自ら、各圃場を確認して回る手間を省けるようにもなるかもしれない。
 越智氏は、「気象庁は、日々膨大な量のデータを公開していますが、通常は天気予報などでしか気象データに触れる機会がなく、それは1日あたりの気象データ全体の3%ほどしか見ていないことになると思います。このビッグデータを的確に分析することで、作物の育成に求められる温度などをはじめ、収穫減少のリスクを予想できるようになります」と説明する。

気象予測が難しいみかんの圃場が対象

 愛媛県は、みかんなどの柑橘類の産地として有名だ。みかんは南向きの急峻な土地での栽培が適しているとされているが、海に面した急峻な土地は天気予測が難しい地域となる。そのため、今回の実証実験では柑橘類を対象としたシステムが開発された。  例えば、愛媛県松山市のある農家では、毎年同じ育て方でみかんを栽培しているにも関わらず、みかんの糖度が年々下がってきたという。そこで、過去の気象データを分析したところ、温暖化で雲が増え、日照時間が減ってきたことが要因だと判明した。そこで、マットを敷いて太陽光を地面からも反射させることで、糖度が上がったという。ICTの活用は、こうした原因究明と対策の立案に効果的だ。  越智氏は、「海付近の夜の気温は海水の温度に左右される部分が多く、柑橘類を栽培している篤農家では海の温度を知りたいというニーズがあります。また、3時間で気温が10度変わると柑橘類は風味が大きく落ちてしまうだけでなく、気温が−5度になると枯れてしまいます。そのため、海を含めた周辺の温度を正確に把握し、作物を保護する必要があります。みかんは段々畑で適切に温度管理をする必要があり、愛媛県で生産されている作物の中で最も育成が難しいのですが、逆に考えれば、みかんでの取り組みが成功すれば、他の作物への展開が容易になります」と話す。  現在は、前述のように柑橘系を対象にした事業が進められているが、ハレックスは、米や野菜を対象にした実証実験も進めていく方針だ。また、鶏の畜産家からの引き合いも多いという。鶏は卵を産む際の気温などを管理する必要があり、今回のシステムを流用できるからだ。
 気象データを使った生産管理によって1年中、あらゆる地域で、その地域に合った作物を生産できるようになれば、国内の食料の安定自給にも貢献するだろう。

地場ICT企業の発展が雇用の受け皿に

 今回の実証実験は、正確な気象予測による農業の再生に加え、地場ICT企業の発展も目指しているという。実証実験が行われている愛媛県松山市は地方都市の中では珍しく、年々人口が増えてきており、増加する人口に対応するために若者の雇用の受け皿が求められている。地場のICT企業が、雇用を受け入れて今以上に発展していくには、下請けの業務に完全に依存するのではなく、地場企業自らソリューションを生み出していく取り組みが必要だ。
 こうした地場ICT企業や農家を若者の力で発展させていくために、実証実験は“オール愛媛”で推進されている。具体的には、実証事業では地場のICTベンダーのビジネスを発展させるため、ハレックスは地場ICTベンダーに対してシステムの構築方法を提供するのにとどまり、地場ベンダーがAPIを活用してシステムを構築することにしたという。
 とはいえ、下請けの業務が多かった地場企業が、農家向けシステムを構築することはハードルが高い。そこで、経済産業省の推進資格であるITコーディネーターの資格を保有する人員がハレックスと地場企業の間に立ち、資格保有者が農家のニーズに即したシステムの構築を主導しているという。地元の人間が作業をすべて行うことで、地元の発展に貢献していくのだ。
 今回の実証実験が成功すれば、それは地方再生の足がかりになることは間違いない。本実証実験をモデルケースとして全国的に展開していけば、地方の発展を促せるだろう。

農業用気象システムの操作画面

(リポート:レビューマガジン社・笠間洋介)
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