Sony CSLでは、自然エネルギーの最大限の活用、さらには自然エネルギーを主電力源とする安定的な電力システムの実現を目指し、超分散型でダイナミックに再構成可能なオープンエネルギーシステムの研究を行っている。開発途上国では、電力が供給されない村や電力供給が著しく不安定な地域が多い。そのため、先進国型の電力グリッドによる電力の提供には、莫大なコストと時間がかかる。そこで、オープンエネルギーシステムを小規模に構築し、1日数時間だけでも電力を供給することができれば、教育や医療水準の向上に、経済的な自立にも貢献できると考えられている。
Sony CSLによるオープンエネルギーシステムの研究では、はじめに2010年5月14日から18日にかけて、ガーナ北部の無電化村において、エネルギーサーバーによるFIFA ワールドカップの試合映像のパブリックビューイング実証実験を行った。北部の無電化村を中心に合計5カ所、最大では2,500人以上が集まり、ソーラーパネルによる4時間の充電に対して2時間強のFIFAワールドカップの映像を上映した。また、2010年6~7月には、FIFAワールドカップ2010のライブ・パブリックビューイングも実施した。
続く2011年から2013年にかけては、国際協力機構(JICA)の協力準備調査(BOPビジネス連携促進)の採択・支援を受けて、ガーナの無電化地域においてフィージビリティスタディを実施している。エネルギーサーバーを用いた携帯充電サービスや小分け電力提供などの電力供給サービスを、北部州の2か所のパイロットサイトで現地住民による運用で実施した。
海外だけではなく、国内では第1フェーズとして2011年から2012年にかけて、沖縄科学技術大学院大学(OIST)との共同プロジェクトを、OISTキャンパスで実施した。キャンパスに設置された太陽光発電および小型風力発電設備とSony CSLが開発したエネルギーサーバーによって、OIST構内のトンネルギャラリーのプロジェクターを再生可能エネルギーで運用する実験を行っている。
そして第2フェーズでは、2012年~2014年にかけて、亜熱帯・島しょ型エネルギー基盤技術研究事業(沖縄県)の採択・補助により、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、沖創工、およびソニーグループ3社との共同で、「オープンエネルギーシステム(OES)を実現する分散型DC電力制御に関する実証的研究」を実施している。
2013年度は、OISTキャンパス内の教員住宅エリアに「DC-based OES (DCOES) プラットフォーム」を構築した。その構成は、各戸に蓄電システム(Energy Storage System : ESS)と太陽光発電パネル(PV)をDC接続で設置し、ESSから住宅内のAC負荷(エアコンなど)に電力を供給する。そして、数戸規模でESS間をDC線および通信線にて接続する。このDCOESプラットフォーム上で、蓄電余力のあるESSに他住宅のPVから余剰電力を供給する実験を行った。また、任意のESS間で指定した電力量を伝送しあう(1対1および1対多)実験など、住宅間のDC電力融通実験も施した。
太陽エネルギーからの発電そのものは、新しいテクノロジーではない。しかし、Sony CSLによるOESプロジェクトでは、既存の太陽光発電システムよりもはるかにエネルギー供給が安定している。その理由は、家庭のエネルギーサーバーをDCマイクログリッド状に繋げることによって、各家庭に日照量のムラがあっても全体に均等にエネルギーを供給できる点にある。例えば、人が不在でありがちな家で発電された電力を常に人がいる家庭に回すなど、様々な生活パターンの家から電力を融通し合い、効率的にエネルギーを分配する。また、発電されたエネルギーがSony CSLの提供する特別な蓄電池に蓄えられるので、晴天時に蓄えたエネルギーを曇天時に使うなど、天候に左右されることなく安定してエネルギーが利用できる。
Sony CSLでは、今回の実験結果をもとに、いずれはこの技術を電気の通っていない離島や発展途上地域のインフラ基盤を整備するために応用しようと考えている。
「今のように石油や石炭を燃やし続けては、気候変動によって私たちは窮地に追いやられるだろう」と、Sony CSLの北野教授は述べている。「これから発展する地域は、先進国のように化石燃料を大量に消費して後から悔やむよりも、初めから持続可能なエネルギーのインフラを導入した方が、地球環境にも生活への影響も良好だろう。数時間電気を使える時間が増えるだけで、仕事や勉強ができる時間が延びて経済的な自立にも繋がるだろう」と、北野教授は将来への展望も語る。
Sony CSLの研究は、FIFAワールドカップのライブ・パブリックビューイングをソニーがテレビCMで放映するなど、話題性も高い。これからは、先進国の電力モデルをそのままインフラとして採用する時代は終わろうとしている。国や地域、そして地球環境に配慮する形で、はじめから自然エネルギーを活用した電力システムをインフラとして構築する取り組みが求められている。