エネルギー・環境

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2014/08/12

横浜スマートシティプロジェクトに見る実証実験の成果と課題

横浜市は、中期4カ年計画に「環境最先端都市戦略」を位置付け、低炭素社会に向けた需要の創出による市内経済の活性化に取り組んでいる。その取り組みの一環として、経済産業省から「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に選定された「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を推進している。同プロジェクトでは、節電量買取とネガワット取引の実証実験を行っている。その成果と課題について考察していく。

実証実験の概要

 横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)には、拠点ビルや工場に集合住宅など、多くの企業が参加している(表1参照)。  この実証実験の目的は、業務・商業ビル部門において、統合BEMS を介したデマンドレスポンスによる電力のピークカット量の最大化などを通じて、地域レベルでエネルギーを最適に利用すること。
 実施の期間は、2013年7月18日から9月20日までの間の22日間で、対象の時間は13時から16時の平日になる。デマンドレスポンスが発行される条件は、前日の天気予報による最高気温が30度あるいは31度以上の日となり、予報の翌日にデマンドレスポンスを発行する。ただし、実施期間中には、4回のみ当日の2時間前に直前デマンドレスポンスの発行も試行する。
 デマンドレスポンスによるインセンティブの価格は、5円/kWh、15円/kWh、50円/kWhとなっている。この価格の差は、受電電力削減率によって異なる。平成25年度の夏に実施された実証結果では、表2のような結果となっている。これは、電力の需要家がベースラインからの削減量に応じて報奨金を受け取れる「ピークタイム・リベート(PTR)」と呼ばれる方式。ちなみにベースラインは、インセンティブの計算のための電力削減量算出の基準となる過去の平均的電力量で、平日過去5 日間のうち当該時間帯で受電量の大きい方から3 日間を選定し、平均したものを用いた。

25年度は確かな実績を達成

 同プロジェクトには、14棟のビル・工場・集合住宅が参加し、統合ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)を活用した業務・商業ビル部門での本格実証として、電力のピークカットの最大化などを目的としたデマンドレスポンス(DR)実証を実施した。結果は、目標値(ピークカット最大20%)を超える最大22.8%のピークカットを達成した。
 具体的な実証評価では、DR 発効日ごとに14 の事業者をDR 発行グループと非発行グループにランダムに振り分け、両グループの削減量の差分を計測して外気温変動などの要因を除外する計測方法を採用した。また、削減率が最大になった日は、DR発行先に大型蓄電池などの設備があり、電力削減に大きく貢献した。

最大で33.2%を削減した大成建設

 実証実験に参加した大成建設の資料によれば、横浜市内にある大成建設技術センターの敷地内の5棟のビル群を対象に、デマンドレスポンス(DR、需要応答)の実証に、東芝と共同で参加している。そして、2013年夏期のDR実証では、最大で33.2%、平均すると28.7%のピークカット削減効果が得られた。
 大成建設技術研究センターには、太陽光発電システムや太陽熱集熱器に、ソーラー吸収式冷温水機とマイクロコージェネレーション、さらにリチウムイオン蓄電池、潜熱蓄熱槽、直流給電システムといった電源・熱源機器が導入されている。これらをスマートBEMSで管理して、DR信号を受け取ると、天気予報や建物の過去の電力負荷、熱負荷の実績などに基づき、各種電源・熱源機器の最適な運転計画を自動的に行った。最終的には、エネルギー管理士が計画を確認・承認して、翌日の運転スケジュールを決めていた。
 例えば8月8日は、DR時間帯以外は、系統電力と太陽光発電でまかなっていたが、DR対応時はピークカットのため系統電力を減らし、その分をマイクロコージェネレーションと太陽光発電、蓄電池からの放電で補った。空調熱源としては、電気が必要な空冷式/水冷式ヒートポンプチラーと、太陽熱と都市ガスを使用するソーラー吸収冷温水機を使っていたが、DR対応時は空冷式/水冷式ヒートポンプチラーを停止し、その代わりに潜熱蓄熱槽を稼働させた。
 こうした組み合わせの結果、DR時間帯のピークカット率は27.1~30.6%で、平均28.5%であった。1日あたりの光熱費は、都市ガスを使用したため0.8%増えたものの、15円/kWhのインセンティブを考慮すると0.4%減らすことができた。

住友電工はFEMSを開発

 YSCPの参加事業者の中で、唯一の工場となる住友電気工業横浜製作所は、工場の操業に合わせて複数のエネルギー設備からの電力供給を最適化するFEMS(工場エネルギー・マネジメントシステム)を開発した。同製作所は、ガスコージェネレーションシステムを6基と集光型太陽光発電システムという2つの発電設備を備え、さらに蓄電容量で5000kWhの「レドックスフロー電池」と呼ばれる大型蓄電池を設置している。
 3つのエネルギー設備に系統電力を加えたシステム全体の最適な運用を司るために、住友電工は明電舎と共同でFEMSを開発した。同社のFEMSは、横浜製作所内の工場や事務所の負荷、ガスコージェネ発電機、太陽光発電、蓄電池の状況を把握し、系統からの受電、コジェネの稼働、蓄電池による蓄電や放電を目的に応じてリアルタイムで最適に制御する。こうした制御を高精度に実現するには、事前の需要予測と太陽光の発電予測が鍵を握る。工場を含む生産拠点の電力需要は、事務所や商業施設のように気温や天候に左右されるだけでなく、生産計画によって大きく変わる。
 また、レンズで太陽光を集める集光型太陽光発電は快晴時と曇天時の発電量の差が大きい。住友電工は、生産計画を考慮した需要予測機能と、集光型に対応した太陽光発電予測システムを新たに開発し、制御の効率と精度を高めること成功した。

投資対効果を出せるかどうかが鍵

 今回の実証実験を通して得られた成果をもとに、同プロジェクトでは今後に向けた課題についても整理している。その主なテーマは、以下のようになる。
  • 運用コスト削減が持続性の鍵。
  • 電力システム改革に合わせたシステムの市場投入。
  • デベロッパーと連携した集合住宅のスマート化。
  • HEMSの小型化・低価格化と連動する家電の充実。
  • HEMSデータを活用した新サービスの提供。
  • 電力だけでなく熱、ガスも含めた複合エネルギーの最適連携。
  • 設計、施工、運用面をトータルにとらえた事業スキームの確立。
  • 大容量蓄電システムの導入を促す設置・建築・消防規制の緩和。
  • 他EMSとの連携による地域での需給調整役に。
実験から実利用に至るかどうかは、節電やインセンティブに見合うだけの投資対効果を出せるかどうかが、重要な鍵となる。

表1

  • 株式会社東芝 (CEMSおよび統合BEMS 運用)
  • 大成建設株式会社 (大成建設技術センター)
  • 株式会社明電舎 (横浜ワールドポーターズ)
  • 日揮株式会社 (イトーヨーカドー横浜別所店)
  • 丸紅株式会社 (みなとみらいグランドセントラルタワー)
  • 三菱地所株式会社 (横浜ランドマークタワー)
  • 三井不動産株式会社 (横浜三井ビルディング)
  • 住友電気工業株式会社(横浜製作所)
  • 東京ガス株式会社 (磯子スマートハウス)
  • 三井不動産レジデンシャル株式会社(パークホームズ大倉山)
  • JX 日鉱日石エネルギー株式会社(磯子社員寮)
  • 株式会社大京アステージ(ライオンズマンション4カ所)

表2 平成25年度夏季実証結果(インセンティブ価格別受電電力削減率/全拠点平均)

受電電力削減率
インセンティブ価格
平均値
最大値
5 円/kWh
2.1%
6.6%
15 円/kWh
12.2%
22.8%
50 円/kWh
12.7%
22.0%
(リポート:ユント・田中 亘)
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