エネルギー・環境

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2014/07/01

農業クラウド導入後の農家の声に応えた次世代養液土耕システム

株式会社ルートレック・ネットワークス
代表取締役社長
佐々木 伸一氏

ルートレック・ネットワークスは、ビニルハウス内を区画ごとに制御し、肥料を溶かした水の供給量を各区画で適正化できる農業クラウドシステムを提供している。これは、同社の従来型農業クラウドを導入した農家からの要望に即して改良された新サービスだ。

中小規模農家の競争力を高める

 ICT大手各社が、農業クラウドを注力分野の1つとして挙げるケースが増えてきている。その多くは、大規模植物工場に向けた取り組みとなる。クラウドによる植物工場の生産管理の効率化は、大量生産などを行う上で非常に重要だが、国内の農業従事者は中小規模兼業農家が多いということも忘れてはいけない。
 農林水産省によると、国内の耕地面積の約80%が2ヘクタール未満と小規模であり、中小規模農家が一般的な農業クラウドサービスを導入するのは費用面での負担が大きすぎる。そのため、中小規模向けに開発されたクラウドサービスのニーズがある。
 TPPへの備えとして、農業の国際競争力を高めていくには、農業人口の大半を占める中小規模事業者の作業を効率化して収益を上げ、競争力を高めていく必要があるのだ。

名人の知見をシステム化

 クラウドなどのICTを農業分野で使うことで、“名人技術のシステム化”が実現する。M2M事業などを手掛けているルートレック・ネットワークス 代表取締役社長 佐々木 伸一氏は、「農業従事者の高齢化や就業人口の減少が続くと、日々の温度や湿度など微妙な変化に基づいて、水をやるタイミングや施肥量を変えるといった名人の技術が失われてしまいます。そこで、なくなりつつある技術をICTによって実現できれば、これまで蓄積してきたノウハウを今後も活用できるようになります」と説明する。
 しかしながら、農林水産省によると農業従事者の平均年齢は66歳と高齢であり、ICT機器を使うこと自体が、ハードルが高い行為だ。そこで、ルートレック・ネットワークスと明治大学黒川農場は共同で、中小規模のビニルハウス向けのM2Mプラットフォームを活用した農業クラウドシステム「ZeRo.agri」を昨年より提供してきた。

センサーデータに基づいて養液を自動供給

 ZeRo.agriは、肥料を溶かした水(培養液)を必要なときに必要なだけ供給する養液土耕栽培を実現するものだ。ビニルハウスに設置した日射センサーと、土の中に埋めた土壌センサーによって、日射量や土の温度、水分などを10分単位で収集する。収集したデータを無線経由で同社のクラウド基盤に送信し、クラウド上で生育管理アルゴリズムに基づいて計算がなされ、必要に応じて培養液が供給される仕組みだ。システムは自動化されており、運用にあたってITの特別な知識は必要ない。
 センサーで計測したデータなどは、ZeRo.agriに標準で付属するタブレット、またはユーザーのPCやスマートフォンなどで閲覧が可能で、農地や外出先で手軽に状況を確認できる。また、品質を重視するか収量を求めるかといった個別の農家のニーズに応じ、ZeRo.agriを通じて農家自ら肥料濃度の調節なども行える。手を加えた場合でもデータは見える化されているため、後になってその効果を容易に確認できる。

品質の平準化に関する要望が多数

 多くの農家に導入されたZeRo.agriであったが、ZeRo.agriに関するさまざまな要望が寄せられたという。
 例えば、ZeRo.agriは、1システムあたり50a(1a=100平方メートル)のビニルハウスをカバーできるが、多くのビニルハウスでは人手が足りず、1度に全面を定植すると作業負担が大きいため、区画を複数に分け定植時期をずらして栽培しているケースが多い。区画によって作物の生育具合が異なっているため、一括で培養液を供給するのではなく、それぞれの区画に最適化された培養液供給を実施し、品質の平準化を図りたいという声が寄せられたのだ。
 さらに佐々木氏は、「同一のビニルハウス内でも、場所によって日当たりや気温、水はけなどが異なっており、こうした条件の違いで作物の生育に大きな差があるため、異なる条件に対応できる仕組みが求められました」と説明する。そこで同社は、ユーザーニーズに基づいて改良を加えた新たな農業クラウドシステム「ZeRo.agri plus」の提供を開始した。

最大6区画の自動制御を実現

 ZeRo.agri plusは、1つのシステムで最大6区画の培養液の供給を独立制御するための系統を作り、区画ごとに土壌センサーを設置することで、エリアごとの培養液供給量の適正化を実現した。センサーの測定値から日射量や土壌の状態をZeRo.agri plusが自動的に分析し、作物に過度な負担が掛からないように日々の培養液供給量を適切に調整する。ユーザーは、タブレット上でセンサーデータをグラフなどで確認し、水分量の目標値を区画ごとに補正するだけでよく、運用の負担がかからないのだ。
 既存のユーザーは、ソフトウェアのアップグレードで新システムを利用できるようになる。アップグレードは無償で行えるが、これはクラウドの利点と言える。例えば、ユーザーが作業員を手配してシステムを組み直すのは手間がかかるほか、提供者側にとっても、全国にわたる農地に出向いて作業するのは負担が大きい。クラウドであれば、こうした手間、負担を丸ごと削減できるのだ。

クラウド経由で営農指導が可能に

 県庁などの農業担当部署やJAには、営農指導員と呼ばれる職員がいる。かつては、各農地を回って農業の指導を行ってきたが、職員の数は減ってきており、各農地を訪れて指導することが難しくなっているという。
 そこで、ZeRo.agri plusでは、端末のカメラを使った「タブレットカメラアプリ機能」を搭載する。アプリケーションを起動して作物を撮影し、その画像をクラウドにアップロードすることで、クラウド上で営農指導員とデータを共有できる。
 栽培に関するメモを残すことも可能で、営農指導員は現地に出向くことなく、画像やメモを参照にしながら、クラウド経由で指導できるのだ。また、データを栽培記録として次年度に活用することも可能になる。契約農家と取引している企業がリモートで栽培状況を確認し、必要に応じて営農指導を実施することもできるだろう。
 ZeRo.agri plusは多くの導入事例がある。とある農林高校では、ZeRo.agri plusを2つ導入し、8系統の区画を設け、すべて異なる作物を栽培している。水の量や土の種類なども変え、それが作物の生育状況にどのような影響を与えるかを研究しているのだ。2つのシステムはクラウド上で統合されており、ユーザーは1つの画面で管理できるという。
 佐々木氏は、「養液栽培の普及率はまだ低く、施設栽培面積の2%しかありません。そのため、今後の成長市場として期待できます。灌水と施肥の自動化による作業の効率化によって、高齢社会に通用する次世代農業が実現します。ZeRo.agri plusが、中小規模の農家の競争力を高めるきっかけになればと考えています」と語った。

(リポート:レビューマガジン社・笠間洋介)
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